ラ・ロシェルとイル・ド・レ

 

弟が日本から来てたので久々の小旅行をした。 毎回家族が日本から来ると2泊くらいで地方に行くのだが、今回はまだ行ったことがなかった大西洋岸にということになった。

スタート地点のボルドーまではTGVで。しかし直前に決めて全然計画が出来てなかったせいもあり出だしでつまずく。 レンタカーを借りにに行ったがオートマチック車がない!いや、あるにはあったが2日で800ユーロ以上のメルセデスは完全予算オーバー。今回国際免許を持ってるのは弟のみだが、彼は5年前南仏に行った時マニュアル車を運転したが、慣れない道路事情で、左ハンドルのマニュアルではドライブ楽しむ余裕がないから、もうオートマでなけりゃ運転はしない、と宣言。ヨーロッパでオートマが少ないのは常識、ちゃんと調べておけよなんて声が聞こえてきそうだ。実はすでに10年前まだフランスに住む前だが、旅行でディジョンに行ったとき同じパターンで数時間ロスしてる。学習機能のない私、「ことえりちゃん」と呼んでも結構よ(はたしてマックユーザ以外に通じるだろうか、これ)。でも最近は田舎はともかくパリはオートマ車をおいてあるところも増えてきたし、ボルドーといえばフランス5番目の都市、駅構内にレンタカー会社が数社構えているのだしもっと簡単に見つかると思っていた。しかし全滅。ツーリストインフォメーションセンターでレンタカー会社の連絡先一覧をもらいやっと空港に小型のメルセデス、クラスAがあることがわかり、空港バスもすぐ近くの広場から出ているし、いざ空港へ。

 しかし‥そろそろ来てもいい頃かな、と思ったとき空港バスは中央よりの車線をスピードも落とさず通り過ぎ、われわれが気づいたたときは数十メートル先の交差点にいた。走ったけど間に合わない。30分以上待ったあげくおいていかれてしまったのだ。一緒に待っていたビジネスマン風の男性は飛行機の時間がせまっているのだろう。あっけにとられ2,3言ののしりの文句をつぶやきながら、すばやく走り去った。タクシーを探しに行ったのであろう。そう、たしかにバス停に「ここの停車は任意です。乗られる場合はバスが来たら手をあげてください。」と書いてある。しかしだねー、ここは地方行きのバスの発車点にもなっておりバス停の前には様々な行き先のバスが並んでいて視界をさえぎっている。バスの来る時間なんて誤差が出やすいのに、バスの間から車道に出てずっと待っていろとでも?うーん怒ったぞ〜でも怒っている暇はない。われわれもタクシー乗り場を探すのであった。

 タクシー使ってまで空港へ行ってみたら、先に来た人に間違って貸してしまってもう今日はクラスAはない・・なんて事態になるんじゃないかという気もしてきた。フランスでは十分あり得るぞと覚悟していたが、そんなこともなく、無事借りられた。  最初の目的地は古い港町ラ・ロシェル。出発したときはすでに夕方になっていたものの途中まで高速を通り7時過ぎには目的地近くまで来た。
  ラ・ロシェルの手前にロシュフォールという町がある。映画「ロシュフォールの恋人たち」の舞台となったロシュフォール。とても好きな映画で、安直ないい方だけど本当にハッピーなハッピーな映画。オープンセットなのか撮影のために町を塗り替えたのか、色彩も軽やかで鮮やかあくまでも明るいミュージカル。わざとらしい古典的なすれ違いストーリーもここまでやれば見事。 主演はカトリーヌ・ドヌーヴと彼女の実姉フランソワーズ・ドルレアックで、双子の姉妹を演じるが、この映画が公開されたあとまもなくドルレアックは交通事故のため若くして亡くなってしまう。ハッピーな世界と対照的なこんな哀しい現実のことを考えると、この夢の世界が一層はかなく存在しないものとして切なく感じられる。フランソワーズ・ドルレアック広場という名の広場があるのでせめてそこだけでも通りたかったが、地図がないのでどこかわからないし、時間もなくなってきた。陽が暮れないうちに最初の目的地ラ・ロシェルまで行きたかったので本当に端っこを通っただけで、それだけでは取り立ててどうということのない地方の街という印象であった。当たり前だけれど、誰も踊りながら側転しながらスキップしながらは歩いてなかった。
ロシュフォールの恋人たち

この映画はジャック・ドゥミ監督作品だが、同監督の「シェルブールの雨傘」の舞台となったシェルブールも、もとは軍港の街での何もないらしいが、あの映画に思いを馳せ、当地を訪れる人は多いようだ。監督はナント出身でそれぞれの町はまあ近い所にあるので何か思い入れがあったのかもしれないが、何の変哲のない町を映画の中で変身させてしまう名人なのだなあ。
 通りすがりでしかも何も見ていないロシュフォールのことを延々と語ってしまったが、目的地はラ・ロシェルだ。要塞のある港町は数世紀前の面影をそのまま残し、このあたりでは一番大きな町なので活気があり観光地としても賑わっている。 その夜泊まるためのホテルの部屋を確保したあとは船の中をイメージしたレストランで夕食。

  翌日朝食をとりがてら町を散歩。奥がサロン・ド・テにもなっているパン屋さんの朝食はパンがバゲットのタルティーヌ、クロワッサン、パン・オ・ショコラ、レザンなど数種もチョイスでき、お茶はお代わりたっぷり安くておいしい。しかしパンの種類などを見るに、看板こそは出てないもののどう見ても「Paul」系の気がする。そこはかとなく都会の雰囲気があるし。最近進出の著しい「Paul」だがここまできているのか?食べきれなかったパンはしっかりナフキンに包んで持ち帰るのであった。

ラ・ロシェル

 朝食後、ラ・ロシェルの港付近を散歩、入り江のようになったところをぐるりと回ったところにツーリストオフィスがあった。2日目はレ島あたりか、と漠然と考えていたが何せ無計画なのでそれもちゃんと決めてなかった。レ島のあとのルートなんて全く決めてなかったのでここで資料集め。そのあとレ島に向かう。
 イル・ド・レ(レ島)はずっと行きたかったところ。まだ日本でフランス語を習っているときに同島が舞台となった「夫たち妻たち恋人たち」(パスカル・トマ監督)を観た。渡仏を決心したきっかけにもなった映画だ。というとどんな内容かという感じだが、ひとことでいってしまえばバカンス映画。バカンスをイル・ド・レで過ごす者とパリに居残る者、それぞれの登場人物の日常、人間模様をスケッチ風につづったものだが、とても好きな映画のひとつだ。
 イル・ド・レの家で登場人物の1人がピアノを弾き、それと重なってパオロ・コンテの「Via Con Me 」がかかるシーンがある。有名なさびの部分"it's wonderful It's wonderful..."は聞いた事のある人も多いだろう。2人3人・・と皆が集まってきてみんなで歌って踊りながらまた外に出ていく、というこのシーンを見ていて「やっぱりフランスに行こう」と誓ったのだった。個人的には好きだが、ストーリーと関係のない単なる挿入的なシーンで、どうってことないといえばどうってことのない場面なので、何でこれでフランスに行く決心を固めたのかと人は思うだろう。これが直接の決心の理由ってわけではないが、なんというか、それまで渡仏を決めるには今ひとつエンジンがかかっていない現状維持の気持ち55%、いや、やはり渡仏しようという気持ち45%ってくらいの状態の時だったのだが、これでフランスに渡ろうという方が20%ほどアップしたため、すっかりフランス行きモードに入ってしまった。その後このモードは上がり続けたわけでそういう意味で自分の中では記念碑的な映画なのだ。

夫たち妻たち恋人たち
イル・ド・レにて
 イル・ド・レは地図で見て想像していたよりもずいぶん大きく全長30キロくらいあり、ラ・ロシェルとは3キロほどの大橋で結ばれている。映画の舞台ともなった港町サン・マルタン・ド・レに向かうが、どうも町の様子が違う。はずれに来てしまったのかな、と思うがどう行っても、あの港がない。カフェやレストランも並んでいるはずなのにそういう気配がない。観光局でもらったイル・ド・レのパンフレットの写真にもついているくらいなのですぐわかると思ったのに、ぐるぐると30分以上迷っても見つからない。町の詳細地図がないので、車を止めて人に聞こうとするがあまり人通りはなく、遠くに人影が見えてもすぐにどこかに入ってしまう。あきらめて車に戻りまたぐるぐる回りながら、イル・ド・レのパンフレットをパラパラとめくり、島の全体図を見て気づいた。サン・マルタン・ド・レの他にサント・マリー・ド・レなんていう地名がある。どうやらわれわれは後者の方に来てしまったようだ。間が抜けている? だってそんな似たような名前の町が同じ島にもうひとつあるなんて思ってもみなかったから、そこはサン・マルタン・ド・レだと信じて疑わなかったのだ。標識を通り過ぎざま一瞬しか見ただけではSt. Martin du Re とSte. Marie du Re、ほら間違えるのも無理ないでしょ。

「夫たち‥」のころはまだ大橋が建設中で、 「橋が出来ると人が押し寄せて、イル・ド・レのこの素朴な自然も失われてしまうだろうなあ。」 なんてセリフがあった。橋の出来た88年以前はどんな感じだったかは知らないが、確かに町中はお店などを見ても洗練されていて都会的な感じだ。

レストランで子供が席にじっとしていなくててこずってたら、子供好きそうなサービス係の女の人が「ほら、これあげる。いい子にしててね。悪い子にしてるとまた返してもらうわよ」といって小さな布製の袋に入ったものをくれた。中を見ると銀色のキーホルダー、子供だましのような物ではなくなかなかちゃんとしたもので私が欲しいくらい。 こちらの家族に聞くとキーホルダーに描かれているのはケルトのシンボルだという。今回訪れたのは中心の町サン・マルタン・ド・レだけだけれど、またゆっくり行ってみたいところだと思った。  

もらったキーホルダー

映画の中に繰り返し出てきたサン・マルタン・ド・レの港とその町並み

   最初で時間をロスしたものの2日目のレ島までは快調だった。レ島を過ぎてからはこれといった海岸線近くカキの養殖で知られるマレンヌ近くの湖沼地を走ったが、またもや道を間違え時間をロス。迷ったというのとは違う。はるか前方右手に見える大橋をわたらなければならないのだが、見えてはいるものの行き着けない。なぜなら道路と平行して右側に差し渡しせいぜい6,7メートルの、溝に毛が生えたような程度の運河がどこまでも続いていて向こう側に渡れない。水面は道路の高さより若干低い程度で、小舟の通行のためであるから、普通に考えて橋など架けられない。おそらくずっとさきの海峡までこのままだろう、というわけでまた引き返す。引き返したもののまた同じようなパターンに陥るとさらなる時間と、そろそろお金のロスだ。というのは余裕を持って設定したキロ数をもうすぐオーバーしてしまいそうだ。オーバーするのは確実だが、かなり割高になるので出来るだけ抑えなくては。
  曲がり角に待ち伏せし、やってきた車をつかまえ道を聞く。赤ら顔でまぶしそうな目をした、海辺のおっちゃんといった感じのそのひとは「おお、そっちの方まで行くよ。ついてきな。」と言ってくれる。地方はこういうところがいいなー。いつも道に迷って聞くたんびに誰かが誘導してくれる。大体は途中までとか、通り道だからついでだったりするのだが、中には私たちのために回り道して誘導してくれた人もいて感激および恐縮したものだ。あれはノルマンディーに行ったときだったな。
 さあ、ずっとこのまままっすぐ行くと、ガイドブックによれば「風光明媚なリゾート地」として知られた町があるはずだ。しかしたどり着いたその街は海岸沿いにマンション型の近代建築が立ち並び、多くが1階部分がカフェ・レストランで上は2つ星クラスのホテルという構造となっているが、そのカフェやレストランというのがテーブルがテレビゲームになったり、安っぽい装飾がほどこしてあったりで、何とな全体的な雰囲気がB級っぽく、さらにシーズンオフの寂れた感じがそれに輪をかけている。しかしもう7時近い、初夏の晩ってあなどれない。ここいらに泊まるしかないか、でも妹は「こんなB級リゾート地に泊まりたくない〜」と言っている。イル・ド・レのあとだと、なおさらそのギャップが強調される。
  ではもう少しあちらの岬の方まで行ってみようそのまま海岸に沿って別荘地が並んでいるあたりのはずれまでくると、一軒建てのレストランつきホテルがあった。値段その他を見に行くと、家族経営と見られるそのホテルのスタッフ、暇だったのかお客を待ちかまえていた雰囲気で期待いっぱいで挨拶してくれた。こうなるとここに泊まらないと悪いな、という気がしてきた。いやどのみちもう時間的に選択はない、というわけでそこに宿泊。ホテル・レストランなので食事にも便利だ。 この時期、たまにしかお客がないのか部屋に入るとちょっとこもった感じの湿めっぽいにおいがしたが、まあ窓を開ければ気にならなくなったし、そこそこ清潔だ。
 次の朝、やったーうちの子の18番。3歳半だというのに寝るときはまだオムツが必要で、水分摂取量が多いのかあふれることもしばしば。この日は見事に大洪水。必死でお尻ふきとタオルで拭いたが、うーんマットまで少し浸水してしまっただろうか・・ちょっと湿ってるぞー。 今夜からおしっこ臭さがこの部屋に加わるか・・と非常に申し訳ない気持ちになる。
 ホテルの人にボルドーまでにどこか見るべきものはないか聞くと、うーんと考え込んで 「ぶどう畑くらいだねー。」 そしていわれた通り、 そのあとはボルドーまで延々とぶどう畑、でした。ワイン通にはあちこちにシャトーがあっていいと思うけど。 ボルドーの手前でfete des aspergesアスパラガス祭りなんてやってたのでちょっとのぞいてみる。直径3メートルくらいある大きなフライパンで何百個か何千個の卵を使ってアスパラガス入り巨大オムレツを作っていた。チケットを買って食すがこれはオムレツかあ?オムレツと主張したいのならまあしょうがない、そう呼んであげましょうといった感じの不思議な食感のものであった。  
 レンタカーを返したあと、TGVの時間までまだあったのでボルドー市街をぶらぶらした。レンタカー借りた日も昼食食べがてらツーリストインフォメーションオフィスまで街を通ったが、とりててどうということのない街かなあ、もちろん私にとって、だが。建物がすすけているせいか、どこか暗い感じがした。ただ、レンタカー会社の人もレストランの人も皆とっても感じがよかったのが印象的だった。

 ちょっと後半がしぼんでしまったが、レ島はまだ一部しか見てないし、隣のオレロン島もよさげだ。ラロシェルのレストランで周りのテーブルの人たちが食べていたパエリア風海の幸盛り合わせ食べてみたいし、やはりもう一度来たいな。今度は内陸側からスタートしてみよう。